『風の十二方位』の感想・あらすじ・評価|オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジーは読むべき?

『風の十二方位』の感想・あらすじ・評価|オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジーは読むべき?
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みなさんこんにちは! 小説などのレビューを行っている旅狼のレビュー小屋です!

今回は、アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(ルグィン)の『風の十二方位をご紹介します。

『ゲド戦記』の原作者であり、どこかで聞いた「たった一人の子どもが虐げられることで他の全ての住民が幸せに生きている”オメラス”」の話に興味を持って読んだ、アーシュラ・K・ル=グウィンの17の短編集。「SFファンタジー」とも言われるアーシュラ・K・ル=グウィンの物語を存分に感じられる世界がそこには広がっていました

あらすじや感想、評価やおすすめポイント、出版社などの情報もお届けしますので、どんな本なのか、読むべきかなど、気になっている方はぜひこの記事を参考にしてみてください!


『風の十二方位』の内容と感想

『風の十二方位』オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジー_あらすじと感想

まずは、『風の十二方位』の内容や構成、気になる感想についてお話ししていきます。

構成・内容・特徴

冒頭にも書いたように、この本は17の中短編集になっています。最初の2作品は世界観を共有しているようにも感じられましたが、他は独立した作品です。

率直な感想

アーシュラ・K・ル=グウィンは初めて読んだ作者であり、冒頭の『ゲド戦記』と「オメラス」以外はなんの前情報もない状態でした。

率直な感想としては、本当に独特な雰囲気だと感じました。今までにありそうでなかった視点、SFのようなファンタジーのような、ここにしかない作風。フワフワとした掴みどころのない感覚、とにかく不思議な感覚になることは間違いないと思います。

ただ、掲載されている17作品のほどんどがハッキリと何かを提示することがなく、ものによっては革新を語らずに終わったり結末を迎えずにかなり余韻を残したりという形が多いです。なので、人によっては合わない人もいる気はします。そういう意味では、『ゲド戦記』もこんなだったな、と思いました。


『風の十二方位』はこんな人にオススメ

『風の十二方位』オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジー_オススメの人・読むべき?

『風の十二方位』が気になっている人のうち、こんな人はぜひ読んでみてほしいです!

・アーシュラ・K・ル=グウィン(ルグィンの作品を読んでみたい人
・他の人にはない違った世界観の本を読みたい人
・ジブリの『ゲド戦記』がみんなが言うほど嫌いではない人


『風の十二方位』の名言やあらすじ

ではここからは、『風の十二方位』に掲載の作品の中でも特に印象に残った文章やお気に入りのポイント、セリフなどをご紹介していきます。作品によっては内容の感想やあらすじ、要約も載せているので、『風の十二方位』の雰囲気を確かめたいという方も参考にしてみてください

セムリの首飾り

最初に載っている作品なだけあって、アーシュラの世界観を知る上ではとてもわかりやすい作品です。SFのようなファンタジーのような独特な世界観の中で、メッセージを感じる。この作品のテーマは、「モノと時間、どちらが大切なのか?」にあると感じました。

「そのように何年もの時の果てに横たわる世界の、伝説と事実をよりわけることができるであろうか?――」

「伝説と事実を、真実と真実をどうやって見わければよいのだろう?」

この世の中の出来事が本当に事実なのか。確かにニュースとして映像や写真は見ることができますが、それが本当に事実なのか、それを問われると、自分は体験していませんからね。そんな不思議な感覚に陥ります…。

暗闇の箱

「仕えれば、仕えられる身となる」魔女はいった。「支配すれば、支配される身となる。兄君は仕えることも支配することも拒否されたのです…」

グッド・トリップ

『風の十二方位』に掲載されている短編はどの作品も題名が”作品そのもの”を表現しているように感じていたのですが、中でも『グッド・トリップ』は、読み終えると「深いな〜」と感じました。

「時間は伸びもし、縮みもします。見方によって、時代によって、星によって変わります、逆行することだけはありません――くりかえすことも」

『風の十二方位』オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジー_読むべきポイント・オススメ・あらすじ

九つのいのち

クローンをテーマに、「人間とは?」を語った作品。短編なのでその一端にしか触れてはいませんが、その一端を十分に深掘りし、メッセージを伝えてくれていたと思います。

ここでは一文しか引用しませんが、結構響くところが多かったです。

「ある程度は慣れかな。おれにはよくわからないよ。たしかに、おれたちはそれぞれ孤独なんだ。暗闇のなかでは、手をつなぎあうしかないじゃないか」

帝国よりも大きくゆるやかに

『風の十二方位』に掲載されているものの中ではかなり長い方の作品です。異星での活動を通じて、“人間性”や“人間の本質”についてを描いているように感じました。他の作品に比べると“アーシュラ感”はない気がしましたが、だからこそ(幸か不幸か)読みやすくもありました。

読んだ時期的な問題もあるかもですが、映画『アバター』の自然環境をイメージするとさらに読みやすいのではないかと思います。

こんなふうに、またたくまに裏返しのできる感情、一方に偏らせることのできる感情は、ひとつしかない。大ハイン語には、愛と憎悪にあたる言葉はひとつしかない。オンタ。むろん彼女はオスデンを愛してはいない。それはまた別の問題だ。オスデンに感じているのはオンタ、偏った憎悪である。

「愛と憎悪は似たもの、コインの裏返し」とはよく言ったものですが、ここでもその表現に近いものが登場しています。

「ぼくはあんたたちの敵意をありがたくお返ししているんだ。自衛のためにそうしているんだ。」

エンパシー(高感度な共感能力)を持つ人間ならではの発言なのですが、これは現代の人間にも通じるところがあると感じました。「敵意を向ければ、その分の敵意が返ってくる」と。

地底の星

「見ようとするならば、光はある。目で見るばかりでなく、手の業や、頭の知識や、魂の誠実さが、見えぬものを見せ、隠されたものをあばいてくれる。そうしてこの暗い地の底も眠れる星のように輝いている」

最終的な結末も含め、自己啓発的な言葉にも聞こえます。アーシュラの作品の中では珍しい非常にポジティブな言葉だと思うし、だからこそより印象に残っています。

『風の十二方位』オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジー_あらすじ・要約

視野

「建造物かね?」 「知らない。あの都市ぜんたいをどう思う?」 「建造されたもの、作られたものさ。そうにちがいない。」 「どうしてわかる、どうしてそういえる? なにがあれを作ったかわからないのに? 貝がらは〝作られた〟ものかね? もしきみが貝がらを知らなければ、もしなんの背景知識も持たず、類推もできなければ、貝がらと陶器の灰皿を見せられて、どっちが〝作られた〟ものだと見当がつくかね? その目的は? それの意味するものは? それとも、陶器の貝がらならどうだ? それとも、スズメバチの巣は? それとも晶洞石は?」

アーシュラの作品には、普通に生活している上では感じない、見ないような視点から語られるものがとても多い印象でした。それがとても面白いし、学びにも繋がった気がします。

「ぼくは考える人間だった。理性的な人間になろうと努力していた。しかし、真理が目に見えるとき、理性がなんの役に立つ? 見ることは信じることだ……」

“見る”というのは、人間の行為の中でも殊更特別な意味を持つ、そんな気がします。

オメラスから歩み去る人々

この本を手にとるきっかけとなった、ヒューゴー賞受賞作です。

ただ、問題は、私たちが、衒学家や詭弁家の尻馬に乗って、幸福をなんとなく愚劣なものと見なす悪癖を身につけたことにある。苦痛のみが知的であり、邪悪のみが興味ぶかい。

人の幸せを妬む人間が多いことへの皮肉に感じますし、幸せになることになぜか罪悪感を感じる人がいることへの警鐘にも聞こえます。

革命前夜

ネビュラ賞受賞作。面白い視点で描かれた作品で、自分も感じることが多かったです。

しかしそれなら、醜悪でなかった頃、こんなふうに漫然と腰を下ろして、自身をつくづくと眺めたことがあったか? あんまりなかった、そういえば。当たり前の身体は問題にならないのだ。当たり前の身体は道具ではないし、観賞の対象となる所持品でもない。それはあなたそのもの、あなた自身。それがもはやあなたそのものではなくなり、あなたに属するもの、所持品となってはじめて気にかかるようになるというのか――格好はいい? これでいいの? このままでいられる?

だが、前進する以外に何ができよう? いったい、ひとには選り好みなどできるものなのだろうか?

真に勝利の実感を味わうためには、真の絶望という前菜がなくてはならない。彼女は久しい以前に絶望を忘れてしまっていた。もはや勝利はやってこない。前進あるのみだ。

前進するしかない、というのが人生の本質なのかもしれない。そんなふうに思わせてくれる2つの文です…。

自分は底辺であり、実在であり、根源であるということを。 でもあなたは文明を泥のなかに引きずりおろそうとなさるのですか? 後日、ショックを受けた善良な人々が叫んだ。そこで彼女は何年もかけて説明しようとした――もしもあなたがたが泥しか持っておらず、あなたがたが神だったら、その泥で人間を作ればいい、もしもあなたがたが人間なら、その泥で人間の住める家を作ろうと努力すればいい。だが、己れが泥よりましな存在だと考えているものは、だれひとりとして彼女を理解してくれなかった。

「”自分”という存在こそが、どんなものであったとしても根本にあるのだ」ということを言いたいのではないでしょうか。そういう意味で、「自分とは、どんなものにもなる泥と同じような存在なのだ」と表現したのではないかと感じました。


『風の十二方位』の基本情報

『風の十二方位』オメラスでも知られるルグィンのSFファンタジー_出版社・作者・著者・ジャンル

最後に、『風の十二方位』の基本情報です。

【著者】アーシュラ・K・ル=グウィン (Ursula Kroeber Le Guin)

【作品ジャンル】SFファンタジー

【出版社】早川書房


『風の十二方位』 まとめ

『風の十二方位』の感想・あらすじ・評価

ということで今回は、アーシュラ・K・ル=グウィン『風の十二方位』のブックレビューをお届けしてきました!

正直、アーシュラ・K・ル=グウィンの作品は万人受けはしないと思います。ですが、ここにしかない独特な雰囲気が魅力的なのは間違いないですし、きっと好きになる人は絶対にいるはずです(まさにジブリの『ゲド戦記』のイメージです)。

僕もアーシュラ・K・ル=グウィンの不思議な作風に魅入られた側の人間ですので、あまりネガティブなことは言えません。なので、とにかく気になる方は、ご自身の感性のもとこの世界に入ってみてください。そして、ご自身の感想を大切にしてみてください。ある意味それこそが、読書の醍醐味でもありますからね!

少なくとも、本が好き、読書が好きな人にとっては、何かしらを感じられる一冊であることは間違いないと思いますよ!


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